〜理容室・美容室(美容院)経営の法律知識〜

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理容室・美容室(美容院)の開業・経営に必要な行政手続や法律知識について、さまざまな情報を提供しています。理美容室経営者の方や将来独立開業予定の理容師・美容師の方、理美容業界関係者の方は、ぜひお読みください!
6-17.理美容室経営における合同会社の活用法(2)
 引き続き、理容室・美容室経営における「合同会社」の活用法です。前節では、主にこれから法人化を目指す個人事業主の方にとってのお話でしたが、合同会社は現在すでに株式会社や有限会社の形態で理美容サロンを経営されている方にとっても、使いようによっては非常に役に立つ会社組織だと思います。

《3:スタッフが独立する際の受け皿として利用》

 それまで自店で働いていたスタッフが、お店を辞めた後、自店のすぐ近くで独立開業し、お客様をもっていってしまうということは、良くも悪くも理美容業界ではしばしば起こりうることです。こうした場合に、「オーナーがスタッフの独立を支援する代わりに、自店の商圏を荒らさない場所で開業させ、売上(利益)のうち一定額を納めさせる」という、一種の「独立支援制度」として、合同会社を活用することができます。
 つまり、オーナーと独立するスタッフが共同して合同会社を設立し、新たに出店する理美容室の経営を行うといったやり方です。
 前回も触れましたが、合同会社の社員は有限責任ですので、出資をするオーナーとしてはリスクの管理がしやすいですし、また、合同会社の意思決定の方法や利益の分配割合は定款で自由に定めることが出来ますので、独立するスタッフの側も、例えオーナーの出資額のほうが多くても、業務執行権は自分が握るといった形態をとることも出来るわけです。

 このような独立支援制度を設けることは、スタッフを新規採用する際にもアピールポイントとなりますし、スタッフのモチベーションの向上にも繋がります。また、独立後もオーナーと元スタッフの関係を良好に保つことが出来れば、仕入れや広告宣伝、経理事務などを共同して行うことによるコストの削減、スタッフの採用や訓練での協力関係、技術ノウハウや顧客データの共用化などで、さながらフランチャイズ・チェーン店のような「規模の経済メリット」を得ることが出来るようにもなります。
 なお、顧客名簿の共用化については、個人情報保護法上、一定の手続きが必要となりますので、この点にはご注意ください(5-10参照)。

《4:いわゆる「暖簾(のれん)分け」の際に利用》

 すでにいくつかの支店を保有しているオーナーが、そのうちのひとつの店舗を、それまで自店で働いていたスタッフに「暖簾(のれん)分け」するような場合にも、そのスタッフと共同で合同会社を設立して行うという方法があります。

 暖簾分けについては、他にも「営業譲渡」や「店舗・設備の賃貸借」という方法がありますが、「営業譲渡」の場合には、営業を譲り受ける側のスタッフに、それなりのまとまった資金を準備する必要がありますし、「店舗・設備の賃貸借」契約の場合でも、毎月「固定費」としての賃貸料を支払う必要が生じてきますので、特に売上のあがらない初期段階では経営が厳しいという問題点があります。また、「店舗・設備の賃貸借」契約は、基本的には店舗や設備といった「ハード」についての契約ですので、その店舗の持っていった「無形財産」である「ブランド」や「信用」の取り扱いを定めるのが難しいという欠点もあります。
 さらに、いずれの場合にも、譲り渡した支店の経営権はスタッフに移りますので、もはやオーナーの側は、原則としてその経営方針には口出しが出来ないという問題点があります。

 この点、オーナーが「譲り渡す支店そのもの=店舗+設備+その他無形財産」を出資し、スタッフはそれまでに貯めたいくらかのお金(1円でもOK!)を出資するという形で 共同して合同会社を設立して、その支店の経営を行うといった方法をとることもできます。
 この方法のメリットですが、オーナーにとっては、新設された合同会社についても一定の経営権を有していますので、自分が保有している他の本店・支店の営業にも悪影響を及ぼすような行為、例えばお店の信用を失うような違法営業行為や、極端な安売り行為に「待った」をかけることが出来ますし、また、スタッフの側としても、一から新たにお店を立ち上げるのに比べれば、遥かに少ない労力・出資額でお店を経営することが出来るというメリットがあります。
 
 すでに繰り返し述べてきた通り、合同会社では、出資額とは無関係に経営権の内容を定めることが出来ます。したがって、例えば、譲渡する支店の経営については、原則としてスタッフの自由にさせることでモチベーションを引き出し、例外的に他の本店・支店の営業にも悪影響を及ぼすような行為については、オーナーが一種の「拒否権」を有するような定め方をすることも出来ます。また、利益の分配割合についても、オーナー・スタッフ間で出資の額とは無関係に定めることが出来ます。
 この点、「暖簾分け」に株式会社や有限会社の形態を利用してしまいますと、どうしても「金を出す側が強い」ことになるわけですが、合同会社ではそのようなしがらみは無いのですね。

《5:後継者への事業承継に利用》

 最近は、特に理容業界において店主の高齢化が進んでおり、また跡継ぎも少ないことから、永年その地域に愛されてきた「床屋さん」でも、惜しまれながらも廃業するといったケースが増えています。
 こういった場合にも、高齢の店主と独立する若手理容師が共同で合同会社を設立し、そのお店を「引き継ぐ」といった方法をとることが出来ます。
 こちらの方法も、考え方としては上記の「暖簾分け」と同じです。つまり、高齢の店主が「お店そのもの」を出資し、若手理容師がいくらかのお金を出資して、実際の業務執行は若手理容師が取り仕切るというやり方です。
 高齢の店主にとっては、若手理容師がうまくお店を引き継いでくれれば、その利益のうちのいくらかの分配を受けられるメリットがありますし、また、合同会社は有限責任なので、万が一若手理容師が経営に失敗しても、「お店を失う」以上の負債を負うリスクを避けることが出来ます。ここで「お店を失う」ことは痛手にも見えますが、実際のところ「廃業予定のお店」を失う訳ですから、出資範囲をきちんと区切っておけば、最小限の被害で済むわけですね。

 さらに、合同会社の「有限責任社員」の地位は相続の対象となるので、高齢の店主が死亡した後、その妻などが利益の分配を受ける権利などを引き継ぐことが出来ますし、また、身寄りが無い場合には、その地位を若手理容師に「遺贈」することも出来ます。つまり、自分が死ぬまではお店(と自分の生活費)の面倒を若手理容師にみてもらい、死後はその店の権利をすべて与えるというやり方です。
 一方、若手理容師の側のメリットは、前述の「暖簾分け」と同様、一から立ち上げるよりも少ない資金、時間、労力でお店を立ち上げることが出来ますし、また、お店や設備を賃貸するわけではないので、利益が上がらない場合には固定費としての賃料を払わなくても良いというメリットがあります。(この点は、高齢の店主にとっては大きなデメリットですが・・・)

 なお、一般に若い人は年寄りと一緒に仕事をしたり、指図を受けることを嫌う傾向がありますので、この場合には、実際の業務執行は若手理容師がその大半を行うように定めることが、両者の関係を維持するポイントと言えそうです。
 また、事業を譲る高齢者の側も、「自分の老後の生活資金のため」といって、利益の分配割合を高めに定めてしまうと、実際にお店を経営する若手理容師の意欲を失わせてしまいますので、ここはむしろ、「お店に来ていただくお客様のため」「地域のため」という視点で、「自己の利益」よりも「お店の存続」を優先して考えた方が、かえってうまくいくのかもしれません。

《6:サロン間の共同事業会社として利用》

 現在すでに理美容サロンの経営を行っている経営者同士、もしくは会社同士で共同して合同会社を設立し、その合同会社に理美容サロンを設立させて、さまざまな実験的試みを行わせ、その結果をそれぞれのお店にフィードバックするといった利用方法も考えられます。例えばアレルギーやアトピーに苦しむ消費者を対象に、低刺激性のシャンプーやパーマ液を使用して施術を行うなどのお店を、実験的に設立するような場合です。

 このような実験的な試みは、企業にとっては当然リスクが高いわけですが、そのような研究開発的な試みや実験的な試みを、子会社として設立した合同会社で行わせることによって、万が一失敗した場合にも、本業を行っている親会社に責任が及ぶことを、回避することが出来るのですね。
 また、こうした試みは、子会社として株式会社を設立して行わせるよりも、合同会社で行ったほうが、組織を簡素化でき、しかも運営コストを安く出来ます。合同会社は株式会社とは異なり、株主総会や決算公告といった縛りがなく、意思決定が迅速にでき、小回りが利くので、むしろ実験的な試みをするための会社組織には、最もふさわしいといえます。

 さらに、繰り返しになりますが、合同会社では利益の分配を出資の額とは無関係に定めることが出来ますので、「A社はお金を出し、B社は知恵(労力)を出す」ような場合でも、利益の分配は50%ずつというようにも、定めることが出来るのですね。余談ですが、すでに合同会社(LLC)が導入されている欧米などでは、「大学が知恵を出し、企業が金を出す」という形でのジョイントベンチャーを行う際の会社組織として、合同会社(LLC)が多く活用されているそうです。
 また、仕入れや広告宣伝などを、複数のサロンが共同して行うために、合同会社を設立するといったことも、選択肢としてあげられるかもしれません。

 ただ、この点については、また後で紹介する「有限責任事業組合(LLP)」という組織を使用する方法もありますので、またそのテーマに入ったときに、説明したいと思います。