メールマガジン 週刊「理容室・美容室の経営法務」 バックナンバー
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  週刊「理容室・美容室の経営法務」 第6号 2005年11月23日発行
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     <発行元:行政書士 森法務事務所 毎週水曜日発行>
  URL:http://www.ribiyou6pou.com/ MAIL:magazine@ribiyou6pou.com
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  ○今週の記事
   ・今週の話題:希望と異なる髪形で、美容室に損害賠償命令!
   ・理容室・美容室とお客様との契約関係
   ・お詫び:「法令と通知の違い」の記事は延期します
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★☆今週の話題☆★

 みなさま、こんにちは!行政書士の森です。

 さて、すでにご存知の方も多いと思いますが、新宿・歌舞伎町のキャバクラ
に勤める女性が、渋谷区にある美容室でカットやヘアカラーをした際に、希望
とは大きく異なる髪型にされたため営業的損害や精神的苦痛を受けたとして、
その美容室を相手に600万円の損害賠償を求めていた裁判で、東京地方裁判
所は16日、美容室に対して約24万円の支払いを命じました。

 ちなみにこの事件、日本の一般誌、スポーツ誌はもちろん、イギリスの新聞
でも取り上げられ、話題となりました。

 今回のメルマガでは、この事件について書いていこうと思います。
まずは、報道された内容をもとに、事件のポイントを整理してみます。

【事件のいきさつ】
・原告の女性は、2004年4月に、東京都渋谷区の美容室を訪れた。
・女性は美容室で、カットとヘアカラーを依頼した。
・カットの際には、巻き髪やアップにできるよう、最も長い部分の髪は残すよ
 うにと注文した。
・その際に、ファッション雑誌などに掲載されている髪型の写真なども見せて
 注文をした。
・しかし、担当の美容師は「自分に任せろ」といって、女性の希望を十分聞こ
 うとしなかった。
・その結果、女性の希望よりも髪が短くカットされ(頭頂部が約7センチ)、
 髪形も希望とは違ったため、女性は途中で店を出た。
・その際、美容室は約1万6500円の代金を受け取らなかった。
・ヘアカラーの色もなかなか希望通りにはならず、何度もやり直したが、結局
 希望通りにはならなかった。
・女性が入店してから退店するまで、約7時間がたっていた。
・それから2週間後、女性の新しい髪形をみて激怒した交際相手のホストが、
 女性やキャバクラ店のスタッフとともに、美容室側に抗議した。
・美容室側は、誤ってカットしたことを認め、エクステンション代などとして
 約10万円を支払った。

【原告である女性側の主張】
・女性は「長く美しい髪」を、キャバクラ嬢としてのアピールポイントにして
 いた。
・しかし、頭頂部を短くされたため、巻き髪やアップができなくなった。
・そのため、エクステンションをつけて接客をしていたので、エクステンショ
 ンの費用が負担となった。
・エクステンションはキャバクラ店のヘアメーク担当者にセットしてもらって
 いたため、出勤前の同伴営業ができなくなった。
・女性が勤務するキャバクラ店は歩合制のため、髪を切る前と比べて平均月収
 が半分になるほどの経済的ダメージを受けた
・精神的にも、接客に自信がもてない時期があったなどの苦痛を受けた。

【判決の内容】
・美容師が女性の希望を十分に確認することを怠り、その結果、希望とは異な
 る髪形となったとして、美容室側の過失を一部認めた。
・原告はキャバクラ嬢という、容姿の美しさが重視される職業に携わっており
 また、髪形は女性の容姿に大きく影響する。
・女性はエクステンションの使用を余儀なくされたことで、接客に自信がもて
 なくなった時期があったとして、精神的損害を認めた。 
・髪を短くされたことが、大まかな傾向としては収入に影響しているものの、
 そのことが明確に収入が減った直接の原因であるとまでは言えないとして、
 エクステンションの代のほか、収入の減少分については一部のみ認めた。
・損害賠償の金額は約30万円と認定された。この金額から、すでに美容室が
 原告側に支払った約10万円を差し引き、訴訟費用などを加えて約24万円
 の支払いを、美容室側に下した。
・なお、担当したのは東京地裁の女性裁判官であった。

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★☆理容室・美容室とお客様との契約関係☆★

 今回の東京地裁の判決は、特に理容室・美容室を経営されている方に大きな
反響を与えたと思います。
 このような判決が出た理由については、判決文の原本を見てみないと、本当
のところはわかりません。

 ただ、一般論として、美容室がお客様の希望通りの髪型に施術できなかった
場合には、法律上どのような責任を負うのでしょうか?
 今回はこのテーマについて書いていきたいと思います。

 まず、前提知識なのですが、理容室・美容室とお客様の関係は「請負契約」
と解されています。『契約』というと、何か契約書などの書類にハンを押すよ
うなイメージがあるかもしれませんが、例えばスーパーやコンビニでジュース
を買うのも契約です。ちなみに、この場合は「売買契約」となります。また、
契約は口頭でも成立しますし、黙ってレジに商品を持っていってお金を払うと
いったように、言葉を発しなくてさえ、成立することもあります。

 「請負契約」の定義は、民法で規定されています。

 ・請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその
  仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その
  効力を生ずる。

 ポイントは、『仕事の結果に対して報酬を支払う』という点です。
さらに続けて見て行きます。

 ・仕事の目的物に瑕疵(かし※)があるときは、注文者は、請負人に対し、
  相当の期間を定めて、その瑕疵(かし)の修補を請求することができる。
  ただし、瑕疵(かし)が重要でない場合において、その修補に過分の費用
  を要するときはこの限りでない。
 ・注文者は、瑕疵(かし)の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠
  償の請求をすることができる。 

 ※瑕疵(かし)というのは、通常は「欠陥」の事を言うのですが、
  ここでは「注文どおりに仕上がってないこと」をいいます。

 例えば、住宅の新築やリフォームも請負契約になるのですが、注文通りに仕
上がっていない場合には、注文主はリフォーム会社などに対し、「○ヶ月以内
に直せ!」と請求することが出来るのですね。

 ただし、大した欠陥でないのに、直すのには過大な費用がかかる場合には、
「直せ」と請求することはできなせん。この場合には「お金で決着」すること
になります。
 また、その業者には修理をさないで、他の業者に直させてその代金を負担し
てもらうことも出来ますし、その業者に修理をさせた上で、それ以外にも損害
がある場合にはその賠償を請求することもできます。

 これを理容・美容に当てはめて考えて見ますと、髪型がお客様の注文通り仕
上がらない場合には、原則的には、お客様はお店に対して、「やりなおし」を
請求することが出来ます。
 ただし、「注文通り仕上がらない」という点が些細な場合で、「直す」のに
は過大な費用がかかる時には「やりなおせ」という要求に応じなくてもよいこ
とになります。

 例えば、髪の長さが注文よりも5ミリ「切り足りない」場合には、あと5ミ
リ切ってあげればすむと思いますし、それでOKなのです。
 また、注文よりも5ミリ「切りすぎてしまった」場合には、普通はそのミス
は些細であると言えるでしょうし、その5ミリを直すためにエクステンション
をすることは「過分な費用」がかかるといえるので、そういった要求には答え
る必要はないことになります。

 この場合、法律上はお客様はお店に対し「やりなおし」は請求できなくても
「損害賠償」は請求できることになりますが、一般的には髪の毛を5ミリ余計
に切った程度では「損害」とはいえないでしょうし、お坊さんや女優など、よ
ほど髪の長さについて特殊な要求がない限り、請求は出来ないでしょう。

 したがって、この場合には、少なくとも法律上は損害賠償責任などを負う可
能性は低いといえます。もっとも、営業的には別問題ですが・・・

 また、お客さんの注文の仕方に問題がある場合も考えられます。民法では

 ・仕事の目的物に瑕疵(かし)があり、そのために契約をした目的を達する
  ことができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。
 ・前2条の規定は、仕事の目的物の瑕疵(かし)が注文者の供した材料の性
  質又は注文者の与えた指図によって生じたときは、適用しない。
  ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げ
  なかったときは、この限りでない。

 例えば、注文主が建物の1階に車2台分の駐車スペースを確保してくれと、
業者に依頼した場合には、業者はその注文どおりに建物を建てた結果、あとで
耐震強度が不足することが判明しても、注文主の指示通りにしたのだから、原
則的には責任を負わないことになります。

 しかし業者が、この注文通りに建ててしまったら、耐震強度が不足すること
をわかっていながら、そのことを注文主に告げなかった場合には、業者も責任
を負います。(もっとも、この例では業者はプロなのですから、わかって当然
なのですが・・・)

 この場合、業者としてはまず「この土地の面積で車2台分のスペースを1階
に確保しようとすると、柱を細くせざるを得なくなり、耐震強度が不足します
よ。」と、注文主に対し、プロとしてのアドバイスをきちんとしなければなら
ないということです。

 これを理容・美容に置き換えてみますと、例えば髪の傷んだお客様が、パー
マやヘアカラーをオーダーしてきた場合、理容師・美容師としてはお客様に、
「この髪の状態でパーマやヘアカラーをいたしますと、髪がさらに傷んだり、
脱毛してしまうかもしれませんよ」と、きちんと告げなければならないことに
なります。 

 同様に、お客様が「この写真のような髪型にしてください」とオーダーして
来た場合には、基本的にはそのように施術すれば良いのですが、お客さんの髪
質や長さ、痛み具合から判断して、そのような髪型にするのが適切ではないよ
うな場合には、そのことをきちんと告げなければならないことになります。

 もっとも、その言葉の言い回しには注意が必要ですよね。
「あなたがこの写真のような髪型にしても似合いませんよ」などと言おうもの
なら、お客様は怒ってしまいますので(笑)

 言い換えますと、「あなたの注文通りにやったのだから、当店では責任を持
ちませんよ」とは、必ずしもいえないのですね。

 ところで、今回の事件では、ちょうどこれとは逆のことが、お店で行われて
いたように(少なくともマスコミの報道では)言われています。
 「注文通り」でも責任を負う場合があるのですから、「注文を無視」して髪
を短くしてしまったことは、やはりまずかったと言わざるを得ないでしょう。

 ちなみに、お客様にパーマやヘアカラーを施術した際に、皮膚炎を起こして
しまっただとか、ストレートパーマをして大量の脱毛を生じてしまったような
場合に、それを行った美容室が損害賠償を支払えという判決をうけた例は、今
までにもありました。この判例については、おいおい私のウェブサイト『理美
容六法.com』で書いていこうと思っています。

 今回は、そうした例ではなく、「髪型が注文と違う」点で損害賠償が認めら
れたことが、良くも悪くも「画期的な判決」となったのですね。 

 では、この判例が出たことで、「髪型が注文と違う」ような場合には、理容
室・美容室は損害賠償を支払わなければならないのでしょうか?

(次号へ続く)

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★☆お詫び☆★

 前回のメルマガ(第5号)で、「次回は、法令と通知(通達)の違いについ
て、書いていきます。」と予告していましたが、裁判の記事を優先的に掲載し
たかったため、このテーマについては次回以降に延期いたします。
 ご迷惑をおかけいたしますが、なにとぞご了承ください。

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<ご注意>
 当メルマガの記事は、法律の専門家では無い方を対象に、なるべく解り易く
読んで頂けることを基本コンセプトにしております。したがって、内容の厳密
さという点では、多少いたらない点もございます。
 実際にこの記事に書かれているようなトラブルを抱えている方につきまして
は、当事務所もしくは他の法律専門家の方に、個別に相談されることをお勧め
いたします。

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<編集後記>
 先週の金曜日に、近くの病院で人間ドックをしに行ってきました。
別にどこか体が不調とか、そういうことではないのですが、独立開業してから
は職場で健康診断があるわけでもなく、また個人事業で自分が倒れたら誰も助
けてくれませんので、「念のため」診てもらいました。

 人間ドックで一番嫌だったことは、胃カメラを飲むこと。生まれて初めてで
したので、とても不安でした。看護士さんから「鎮静剤を使用しますか」と尋
ねられて、思わず「使用しないと痛いですか?」・・・情けないですかね?

 逆に、ちょっぴり嬉しかったのは、視力が上がっていたこと。毎日パソコン
をしている割には、結構良かったです。それから、ダイエットの成果で体重が
1年半で15kg減ったこと。お腹も中年太りになりかけていたのが、すっか
り引き締まり、それを測定してくれた美人の看護士さんに褒められたこと・・
男って単純ですね・・・m(_ _)m

 ちなみに、どうやって15kgダイエットしたのかも、このメルマガでその
うち書いていきます。むしろ、このテーマでメルマガを執筆した方が、小難し
い法律のメルマガよりも、読者を獲得できるかもしれませんね(笑)
 それでは、次号もよろしくお願いします。

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