メールマガジン 週刊「理容室・美容室の経営法務」 バックナンバー
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  週刊「理容室・美容室の経営法務」 第7号 2005年11月30日発行
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     <発行元:行政書士 森法務事務所 毎週水曜日発行>
  URL:http://www.ribiyou6pou.com/ MAIL:magazine@ribiyou6pou.com
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  ○今週の記事
   ・今週の話題:韓国で、髪型をめぐって暴力事件発生
   ・「耐震強度不足マンション事件」について思うこと
   ・理容室・美容室とお客様との契約関係(2)
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★☆今週の話題☆★

 みなさま、こんにちは!行政書士の森です。
今週もよろしくお願いいたします。

 さて、日本では先日、このメルマガでもお伝えした、「希望と違う髪形」で
損害賠償を命ずる判決が出たことが、いまだ記憶に新しいところですが、お隣
の韓国でも、髪型を巡ってとんでもない事件が起きてしまいました。

 この事件は、ソウル市内のとある美容室で「俳優のチェ・スジョンと同じ髪
型にして欲しい」と注文した40代の男性が、それとは異なる髪形になってしま
ったことに腹を立て、担当した30代の男性美容師の顔を数回に渡って殴り、暴
力などの容疑で逮捕されたというものです。

 逮捕された男性は保険会社のセールスマンで、自分の顧客の中にチェ・スジ
ョンのファンである女性がいるため、同じ髪型にしようとしたとのこと。
 それにしても、暴力はいけませんよね。韓国の美容師さんも大変ですね。

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★☆「耐震強度不足マンション事件」について思うこと☆★

 現在世間を騒がしている「耐震強度不足」マンションの事件、到底許しがた
いものがありますよね。この事件の建築士は、まさに「プロ失格」です。

 自分の仕事に誇りをもてなくなったとき、その人は専門家としての輝きを失
くしてしまうのではないでしょうか。これは、建築士のみならず、専門性を有
する職業である医師や弁護士、司法書士や行政書士、税理士、そして、理容師
、美容師の皆様にも、きっと共通するものがあるのではないでしょうか?

 この事件の教訓として、私が思ったことは、「ひとたびお金で魂を売ってし
まったら、二度と買い戻すことはできない」ということ。

 お金に困って、プロとしてはやってはいけない手抜きをしたり、関わっては
いけない業者と関わってしまうと、やがてそこから抜け出せなくなってしまう
のですね。私も法律で飯を食うものとして、このことは肝に銘じておきます。

 ところで、前回のメルマガ第6号の記事の中で

『例えば、注文主が建物の1階に車2台分の駐車スペースを確保してくれと、
業者に依頼した場合には、業者はその注文どおりに建物を建てた結果、あとで
耐震強度が不足することが判明しても、注文主の指示通りにしたのだから、原
則的には責任を負わないことになります。

 しかし業者が、この注文通りに建ててしまったら、耐震強度が不足すること
をわかっていながら、そのことを注文主に告げなかった場合には、業者も責任
を負います。(もっとも、この例では業者はプロなのですから、わかって当然
なのですが・・・)』

 という文章を書いていたのですが、若干説明が足りなかったので、この場を
借りて補足させていただきます。

 この記事でいう「責任」は、あくまで『民法の請負契約』の責任の話です。
実際にこのようなことを建設業者が行った場合には、当然のことながら「建築
基準法」など、他の法律上の責任を負いますので、念のため。

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★☆理容室・美容室とお客様との契約関係(2)☆★

 さて、前回のメルマガの続きです。「髪型が注文と違う」ような場合には、
理容室・美容室は損害賠償を支払わなければならないのでしょうか?

 結論から言いますと、「髪型が注文と違う」というだけでは、実際に裁判を
起こされて損害賠償を支払えという判決を受ける可能性は、かなり低いといっ
てよいと思います。

 今回の事件を、マスコミがこぞって取り上げたのは、『キャバクラ嬢 v.s.
美容師』という、世間の興味本位の関心を集めやすい図式であったことももち
ろんですが、それ以外にも、「認められる可能性が低い」と思われていた請求
が「認められた」ことにもあると思います。要するに、ニュースになるくらい
の珍しい出来事だったということですね。

 さて、その理由ですが、確かに前回のメルマガの「請負契約」のところを読
むと、ある髪型を注文したのに、その通りに仕上がらなかった場合には、お客
様は契約を解除したり、損害賠償を請求できるようにも思えます。
 この場合、法律用語では『不完全履行』といって、『債務不履行』つまり契
約上の義務を果たしていないので、確かに法律上は損害賠償を請求できるよう
に書いてあります。

 しかし、実際に損害賠償の請求が認められるためには、『損害の発生』およ
び『損害と不完全な履行との間の因果関係』が存在しなければなりません。
 まず、前提として、「損害賠償」を請求するには『損害』が発生しなければ
なりません。当たり前ですね? そして、実際の裁判で『損害』と認められる
ものは、結構限られてくるのです。
 そしてさらに、その『損害』と、美容室側のミスとの間に『相当因果関係』
がなければ、損害賠償請求は認められません。この『相当因果関係』というの
は後ほど説明します。

 ところで、よく誤解されるのですが、『慰謝料』と『損害賠償』は、厳密に
は別のものです。『損害賠償』は、大雑把に言うと

1:治療費
2:医療機関までの交通費等
3:仕事に支障が出た場合には、その休業補償等
4:精神的なダメージに対する補償

 など、すべてを含みます。一方『慰謝料』とは、上記のうち特に4番のこと
を指します。ただし、『損害賠償』と『慰謝料』をあえて使い分けて説明する
ような場合には、『損害賠償』が上記1〜3、『慰謝料』が4を意味すること
もあります。

 パーマやヘアカラーをする際に、美容師の施術ミスが原因でお客様が皮膚炎
を起こしてしまったような場合には、治療費や通院費などが必要となりますの
で、あきらかに『損害』が発生したといえます。

 しかし、単に「髪型が注文通りに仕上がらなかった」というだけでは、そも
そも『損害』が発生したと言い得るかどうかが疑問です。上記のうち1と2は
まず認められないでしょう。永久脱毛でもしない限り、髪というものは通常は
「治療」をしなくても自然に生えてくるものです。

 ただ、今回の事件の場合には、エクステンション代がある意味の「治療費」
として、1や2も認められていたようですね。まあ、これは注文した長さと実
際にカットされた長さの違いがよほど大きかったのでしょう。

 次に、『損害』として3が認められるかどうかは、例えばそのお客様の職業
にも関係してきます。お客様の職業が一般事務職のOLや専業主婦であれば、
「髪型が気に入らないので仕事や家事に身が入らなくなった」という主張は、
(気持ちはわからなくもないですが)裁判で主張するとなると、やはり通りに
くいでしょう。

 判例(裁判の例)でも、これは美容室の例ではないのですが、女性の顔に火
傷を負わせたケースで、上記のうち1.2.4は認めたものの、一般事務職や
専業主婦の場合には、3を損害として認めなかったものがあります。
 一方、保育士の場合には、「子供がよりつかなくなった」ことが「労働能力
の一部喪失」として、3が損害として認められた例もあります。

 それではキャバクラ嬢の場合はどうでしょうか? 今回の事件では、原告で
ある女性の側は、長い髪を営業上の「武器」にしていた点や、実際に売り上げ
が落ちていることから、3の部分も損害として請求しているわけですが、これ
については、マスコミも、「一部認められた」と報道しているものと、「一部
しか認められなかった」と報道しているものの両方があります。
 ただ、この問題については、後で述べる『相当因果関係』の問題があるので
ここでは結論を出さないことにします。

 次に、4の『慰謝料』についてですが、女性を丸坊主にしてしまったなど、
とても人前に出られない状態にしてしまった場合ならともかく、少しイメージ
と異なった程度では、「精神的損害を受けたので慰謝料を払え」という請求も
通常は認められにくいでしょう。

 また、仮に『損害の発生』が認められた場合でも、無制限にその賠償をしな
ければならないわけではありません。
 その場合でも、実際に損害賠償に応じなければならない金額については『損
害と不完全な履行との間の因果関係』によって制限が加えられます。これが先
に述べた『相当因果関係』です。

 少し難しい言葉ですが、要するに「風が吹けば桶屋が儲かる」式に、あれも
これも、元はといえばあなたが悪いのだから、全部賠償しろ!」とはいえない
のですね。例えば「目をつけていたIT企業の社長に、合コンで声をかけても
らえず、セレブになりそこねたのは、気に入らない髪形にされたせいだから、
○億円払え。」などと言っても、裁判官は相手にしないでしょう。

 この『相当因果関係』については、民法416条で規定されています。

 ○民法 第416条(損害賠償の範囲)
 1.債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき
   損害の賠償をさせることをその目的とする。
 2.特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見
   し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求す
   ることができる。

 例えば、ヘアカラーによってお客様の衣服を汚してしまった場合には、クリ
ーニング代が必要になるだろうなということは、だいたい誰でも予測がつくわ
けです。このように、「こういった状況になれば、通常はこういう費用は必要
になるだろうな」と予測できる損害のことが、1.で「通常生ずべき損害」と
して定められているわけです。この「通常生ずべき損害」については、美容室
は賠償する責任を負います。

 さらに、例えばパーマを失敗してチリチリ頭にしてしまった場合に、そのお
客様が結婚式を間近に控えていたなどの事情があったとします。この場合、美
容室がその事情を知っていた場合や、「予測可能な場合」には、2.で定めら
れているように、「特別な損害」(結婚式を延期にした費用など)についても
賠償する責任を負うことになります。
(ただし、その全額を負担しなければならないかどうかは別問題です。)

 ここで、「予測可能な場合」とは、例えばその美容室が結婚式場の中にある
場合にはもちろんですが、お客様が注文したメニューがブライダル用のメニュ
ーであった場合なども含まれます。こうしたシチュエーションなら、そのお客
様が挙式間近であることはわかりますものね。

 同様に、成人式や卒業式のシーズンに、20代前半の女性が来店した場合に
も、ある程度そのお客様がこれらのイベントを間近に控えていて、そのために
美容室に来ていることは十分に予測可能であるともいえます。したがって、こ
のような場合には、より細心の注意を払って施術を行うことが、美容室側に求
められるわけです。

 逆に、そのお客様が例えばお店にとって初めてのお客様で、注文したメニュ
ーも普通のパーマであったような場合などのように、そのお客様が「結婚式を
間近に控えていた」という事実が美容室にとってはまったく「予測不可能」で
あるようなときには、特別な損害については、損害賠償をする責任を負わない
ことになります。

 ところで、今回の裁判でキャバクラ嬢側は、同伴出勤が出来なくなったため
に売上が下がり、自分の給料も減ったことも損害賠償の請求額に含めて、美容
室側に600万円を請求していますが、果たしてこの「売上の低下」が、美容
室側にとって「予測可能」な損害といえるかは大変疑問ですよね。
 これはあくまで私の憶測なのですが、その分の請求については、判決で出た
24万円という金額から察するに、ほとんど認められていないはずです。

 そう考えると、実はこの裁判、マスコミではキャバクラ嬢側が「勝訴」した
ように書かれていますが、じつはその主張のうちの多くは退けられているとも
考えられますね。

 次号で、この事件について、最後のまとめをしたいと思います。

(次号につづく)

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<ご注意>
 当メルマガの記事は、法律の専門家では無い方を対象に、なるべく解り易く
読んで頂けることを基本コンセプトにしております。したがって、内容の厳密
さという点では、多少いたらない点もございます。
 実際にこの記事に書かれているようなトラブルを抱えている方につきまして
は、当事務所もしくは他の法律専門家の方に、個別に相談されることをお勧め
いたします。

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<編集後記>
 今回は、株式会社しろさか発行のメールマガジン、週刊「日本の理美容室」
とのコラボレーション企画となりました。

 もともと、両誌のコラボレーションについては10月くらいから話を進めて
いたのですが、おりしも美容業界を騒がせた「希望と異なる髪形裁判」が起き
たため、本誌でも急遽このテーマについて取り上げることになった次第です。

 週刊「日本の理美容室」は、新人メルマガライターの私から紹介するのもお
こがましいのですが、多くの発行部数と読者数を有する理美容業界では老舗の
メールマガジンです。登録は以下のサイトからできます。
 http://www.stylist.co.jp/

 なお、当メルマガを大きく取り上げていただいた、週刊「日本の理美容室」
編集長のしろさか様には、この場をお借りしてお礼申し上げます。

 それでは、次号もよろしくお願いします。

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 ○発行元:行政書士 森法務事務所 毎週水曜日発行
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